最終更新日:2026年8月18日
※この記事は、Shopify開発歴8年以上の株式会社SOLSTAR代表取締役・島袋隼が監修しています。
ECサイトを公開したのに売上が伸びない。注文は入っても利益が残らない。更新は続いていても改善が進まない。こうした失敗は、デザインや集客だけの問題ではありません。根本には、商品の需要を十分に調べないまま投資すること、ブランド力が弱く価格競争に巻き込まれること、公開後の分析と改善を他人任せにすることがあります。本記事では、調査資料とSOLSTARが途中参画した大規模ECプロジェクトの経験を基に、ECサイトが失敗する3つの原因を整理します。新規立ち上げやリニューアルを担当する経営者、事業責任者、EC・マーケティング担当者が、過大投資を避け、売上目標や中止基準まで決めるための内容です。
この記事でわかること
- 商品の需要調査不足がECサイトの失敗を招く理由
- ブランド力不足による価格競争で利益が残らない理由
- 他人任せの運用では売上改善が進まない理由
- 売上目標、KPI、中止基準を決める方法
- ECサイトの失敗を避けるために制作前に決める5項目
目次
1. 商品の需要を確かめないまま作ると、ECサイトは売れない

ECサイトプロジェクトが失敗する大きな理由の一つは、商品にどれだけ需要があるかを十分に調べず、サイト制作を始めることです。見た目や機能を整えて予定どおり公開しても、「誰が、どのような悩みを解決するために、なぜこの商品を買うのか」が曖昧なままでは売上につながりません。
制作を始める前に、想定する顧客の悩み、既存顧客から寄せられた声、競合商品の価格やレビュー、検索されている言葉などを調べます。必要に応じて、小規模な販売や予約受付で実際の反応も確かめます。社内の「きっと売れる」という予想だけで進めると、商品構成、在庫、訴求、制作予算を誤るおそれがあります。
需要を確かめないまま制作費をかけると、公開後に売れない理由を特定できず、広告や値引きで売上を補おうとしがちです。その結果、利益が残らず、改善に使う予算や人手も減っていきます。ECサイトの失敗を避けるには、制作の前に商品の需要を調べ、価格以外に選ばれる理由と公開後の運用まで設計することが欠かせません。次章から、この3つの原因を詳しく見ていきます。
2. 売れないECサイトに共通する3つの落とし穴
参考資料と一次情報から見えてくる根本原因は、商品の需要調査不足、ブランド力不足による価格競争、公開後の改善が他人任せになる運用の3つです。これらは「この原因で何%の事業が失敗した」と直接示す統計ではありません。一方、企業が感じる課題や運用行動と売上の関係から、失敗リスクを高める要因として確認できます。
原因1:保守・運用費を確保しても、売上が立たない
保守・運用費を確保している会社でも、売上が伸びなければEC事業は続きません。失敗の原因は、必ずしも公開後の予算不足ではなく、商品の需要を十分に調べないまま制作を進め、想定した注文を得られないことです。EC事業では、保守、システム利用料、広告、撮影、商品登録、物流、問い合わせ対応などの費用が継続して発生します。売上が立たない期間が続けば、確保した資金だけが減り、制作費や運用費を回収できません。
JETROの2022年度調査では、海外販売でECを利用する719社の課題として、「コストに見合った成果が得られない」が25.9%、「必要な社内リソースの不足」が23.4%でした。また、「ECサイト構築や販売促進への対応」は42.6%、「必要な社内人材の不足」は33.7%です。海外向けECの調査であり国内EC全体の代表値ではありませんが、制作以外にも販促と人材が必要になることを示しています。
OECDが10か国の中小企業など1,009件を集計した2025年のデジタル化調査では、導入障壁として維持費40%、研修時間39%、ハードウェア費32%が挙げられました。EC限定の調査ではないものの、デジタル施策は導入した後にも費用と時間がかかるという判断材料になります。
| 費用の種類 | 主な項目 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 設計、制作、撮影、データ移行 | 公開までの総額を見積もる |
| 固定費 | システム、保守、担当者の人件費 | 売上がゼロでも発生する月額を出す |
| 変動費 | 決済、物流、広告、返品対応 | 1注文ごとの粗利に含める |
| 改善費 | 分析、コンテンツ、改修、販促 | 判定日までに使う上限を決める |
最初から理想形を作り切るより、どの仮説をどの順序で確かめるかに予算を使うほうが安全です。商品、顧客、販売方法の確度に応じて最小構成を決め、結果を見て追加投資します。
原因2:ブランド力が弱く、価格競争で利益が残らない
ブランド力が弱いECサイトは、顧客から「どこで買っても同じ」と見られ、価格競争に巻き込まれます。ECでは複数の商品や店舗を短時間で比較できるため、ブランドとして選ぶ理由や購入への安心が伝わらなければ、顧客は価格、送料、配送速度などの分かりやすい条件で判断します。その結果、値引き、クーポン、送料無料、広告への依存が強まり、注文が増えても利益が残りにくくなります。
前述のJETRO調査では、「自社ブランド認知度向上の難しさ」が46.0%、「商品の価格競争」が35.7%でした。海外向けECを利用する企業の回答ではありますが、ブランドを知ってもらえないことと、価格競争に巻き込まれることが同時に大きな課題となっている点は見逃せません。
- 商品の独自性や、どのような人に向くか
- 品質を判断できる素材、製法、選定基準
- 配送、返品、問い合わせへの安心
- レビューや利用方法など、購入前の不安を減らす情報
- 購入後も含めたブランドらしい体験
価格競争から抜け出すには、値下げの前に、ブランドとして選ばれる理由を作る必要があります。商品の独自性だけでなく、「この店なら安心して買える」と思える情報を、商品ページから配送、購入後の対応まで一貫して伝えてください。ブランド力が弱いまま販促を増やしても、一時的に売上が伸びるだけで利益は残りにくくなります。価格の見せ方を検討するときは、価格の心理学と価格設定の考え方も参考になります。
原因3:運用が他人任せになり、売上改善が進まない
ECサイトは、保守・運用の担当者を置くだけで自然に成長するものではありません。担当者やチームには、売上、訪問数、購入率、商品別の動き、広告、在庫、問い合わせなどを確認し、「何が起きたのか」「なぜ起きたのか」「次に何を変えるのか」を決める役割があります。ただし、役割や判断できる範囲が曖昧だと、数字を確認していても、原因分析や改善の決定が他部署、上司、外部会社任せになりがちです。その結果、更新作業は続いても、売上改善につながる動きが止まります。
JETRO調査では、「ECサイト構築や販売促進への対応」が42.6%、「必要な社内人材の不足」が33.7%でした。制作や販促を担う人材の確保は課題ですが、人数をそろえるだけでは十分ではありません。担当者やチームが分析と改善を進められるように、役割、時間、判断できる範囲まで整えることが求められます。
3. 売上目標に届かなければ、ECプロジェクトの中止も決める

ECプロジェクトでは、始める条件だけでなく、続ける条件と中止する条件も先に決めておくべきです。売上が立たないまま「もう少し続ければ売れる」と追加投資を重ねると、制作費、在庫、広告費、運用費の損失が広がります。期限のないプロジェクトは判断が先送りされやすく、社内の優先度や担当者の熱量も下がっていきます。その状態から売上を伸ばすのは難しくなります。
SOLSTARが途中から参画し、開発マネジメントを任された大規模ECプロジェクトでは、2年間で約10億円の開発費が投じられていました。弊社は参画後の開発管理を担いましたが、その時点ですでに、投資規模と事業性の釣り合いが崩れ、実質的な破綻に近い状態でした。サイト公開後の月商は50万円以下にとどまり、その状態が1年以上続きました。それでも中止が発表されたのは、さらに約半年後です。早い段階で売上目標、判定日、中止基準を決めていれば、損失の拡大を抑えられた可能性があります。
開始前に、重要業績評価指標(KPI)と判定日を決めます。「公開から何か月後までに、月間売上と粗利をどこまで伸ばすか」「投資額をいくらまで許容するか」を数字で定め、基準に届かなければ改善、縮小、中止のどれを選ぶかも決めておきます。アクセス数だけが増えても、注文や利益につながらなければ事業は続きません。売上と粗利を最終的な目標とし、注文数、購入率、顧客獲得単価などを途中経過の指標として確認します。
| 判断のタイミング | 確認する指標 | 先に決めておくルール |
|---|---|---|
| 1. 開始前 | 目標売上、粗利、投資上限 | 達成期限と中止基準を文書にする |
| 2. 初回判定日 | アクセス数、注文数、購入率 | 売れない原因を絞り、改善策を決める |
| 3. 中間判定日 | 売上、粗利、顧客獲得単価 | 継続、縮小、追加投資のどれかを決める |
| 4. 最終判定日 | 目標売上、累計損益、回収見込み | 中止基準を下回れば原則として中止する |
| 5. 中止決定後 | 在庫、契約、顧客対応 | 中止後の対応手順と担当者を決める |
売上が立たず、決めた改善を行っても目標への道筋が見えない場合は、プロジェクトの中止も現実的な選択肢にしてください。
4. 失敗を避けるなら、制作前にこの5つを決める
ECサイトを公開した直後は、まず売上を作ることが最優先です。ただし、公開してから売り方を考えるのでは遅くなります。制作前に商品の需要、売上目標とKPI、ブランドとして選ばれる理由、運用体制まで決めておくことで、ローンチ後すぐに販売と改善へ動けます。
1. ローンチ直後は、まず売上を作ることを最優先にする
ECサイトを公開した直後は、アクセス数や機能追加よりも、最初の売上を作ることを優先します。誰に、どの商品を、どの販路と伝え方で販売するかを公開前に決め、ローンチ初日から販促を始められる状態にしてください。注文が入れば、商品、価格、伝え方に対する実際の反応を確認でき、次の改善にもつなげられます。
2. 制作前に、商品の需要を十分にリサーチする
商品に需要があるかは、社内の予想だけで判断しません。既存顧客への聞き取り、競合商品の価格やレビュー、検索されている言葉、店頭や問い合わせで寄せられる声などを調べます。必要に応じて予約販売や小規模な販売も行い、誰がどの理由で買うのかを確かめてから制作範囲と在庫を決めます。
3. KPIを設定し、売上目標と投資上限を数字で決める
売上目標だけでは、途中の問題を見つけられません。月間売上、注文数、購入率、顧客獲得単価、粗利などを重要業績評価指標(KPI)として設定し、いつまでにどの水準へ到達するかを決めます。制作費、固定費、広告費を含む投資上限も定め、判定日までにKPIが改善しなければ、施策の縮小やプロジェクトの中止を判断します。
4. 価格ではなく、ブランドとして選ばれる理由を作る
価格競争を避けるには、「なぜこのブランドから買うのか」を明確にします。商品の独自性、品質への考え方、対象とする顧客、配送や返品の安心、購入後の体験まで一貫して伝えてください。ブランドコンセプトを掲げるだけでなく、商品名、写真、説明、レビュー、問い合わせ対応など、購入までの各場面へ選ばれる理由を反映します。
5. 当事者意識を持って改善できる保守・運用チームを作る
保守・運用の担当者やチームには、更新作業だけでなく、売上を分析し、改善策を決め、結果まで確認する役割を持たせます。責任者、判断できる範囲、週に確保する時間、会議の頻度を明確にしてください。外部会社へ業務を委託する場合も、顧客や商品に関する判断まで任せきりにせず、自社チームが売上改善の責任を持つ体制を整えます。
よくある質問
Q. 売上が伸びないとき、最初に何を見直すべきですか?
主な理由は、商品を求める顧客を十分に確かめていない、価格以外に選ばれる理由が伝わっていない、公開後の集客や改善を続ける体制がないことです。アクセスを増やす施策だけを急ぐ前に、3つのうちどこに問題があるかを確認し、商品、伝え方、運用方法を順番に見直します。決めた判定日までに売上と粗利が改善しなければ、縮小や中止も判断します。
Q. 小さく始めるとブランドの印象は悪くなりますか?
小さく始めることは、品質を下げることではありません。顧客に約束する品質、安心、安全は守りながら、機能、商品数、販促地域など検証範囲を絞ります。見た目を仮のまま公開するのではなく、価値が伝わる最小構成を選ぶ考え方です。
Q. 専任担当者がいなくてもEC運営は続けられますか?
兼任でも運用はできます。ただし、責任者、週に使う時間、担当業務、判断できる範囲を明文化してください。日常業務と競合した場合の優先順位も上司と合意します。外部へ委託する業務と、顧客・商品について自社が判断する業務を分けることも有効です。
Q. 制作会社に任せればECサイトの失敗は防げますか?
制作会社は設計や構築を支援できますが、事業目標、顧客、商品、投資判断、公開後の責任まで代わりに決めることはできません。依頼前に成功条件と社内体制を整理し、それを基に提案を比較してください。選定時の具体的な確認項目は、Shopify制作会社の選び方でも解説しています。
まとめ
ECサイトプロジェクトは、予定どおり公開できても、商品が売れず利益を残せなければ成功とはいえません。商品の需要調査不足、ブランド力不足による価格競争、他人任せの運用が重なると、売上改善が止まり、投資だけが膨らみます。
制作前に、ローンチ直後の売上目標、商品の需要調査、KPIと投資上限、ブランドとして選ばれる理由、当事者意識を持って改善できる運用体制を決めてください。公開後は判定日ごとにKPIを確認し、目標への道筋が見えなければ、惰性で続けず縮小や中止を判断することが損失の拡大を防ぎます。
自社だけでは投資範囲や運用体制を整理しにくい場合は、制作の見積もりを取る前に事業計画から相談すると、不要な機能や公開後の抜けを減らせます。SOLSTARではECサイトの企画・構築・運用について無料相談を受け付けています。
参考文献
- JETRO「2022年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
- OECD「SME digitalisation for competitiveness: The 2025 OECD D4SME Survey」
- 日本政策金融公庫「越境ECに挑戦する企業が直面する課題」
- Smith & Brynjolfsson「Consumer Decision-making at an Internet Shopbot: Brand Still Matters」
- Dinersteinほか「Consumer Price Search and Platform Design in Internet Commerce」